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がん治療に対する当院の取り組み

がん治療に対する当院の取り組み

はじめに

2008年5月の新病院開院とともに、がん治療センターを開設した。このがん治療センターの目的は、IMRT(強度変調放射線治療)をはじめとする高精度放射線治療の導入、そして化学療法と放射線治療の適応を複数の診療科を介することなく判断できる体制の確立、化学療法と温熱療法・高気圧酸素治療を併用する集学的治療の実践にあった。
開設から4年以上を経過し、そのいずれについても高いレベルで実現されており、その内容について紹介する。

高精度放射線治療

1)IMRT

IMRTは、根治的ながん放射線治療における最も高度な治療方法の1つである。開設から5ヶ月の準備期間を経て、IMRTを開始した。

当初は、前立腺癌、頭頸部癌、原発性脳腫瘍から開始し、現在では、一部の肺癌、膵癌、後腹膜腫瘍、婦人科腫瘍など数多くの根治治療に適応が拡大されている。準備に多大なる時間を要する治療であるが、年間100例を超えるIMRTを施行する体制を整えた。

現在では、IMRTの施行がベターと考えられる症例には、IMRTを必ず実施している。前立腺癌では、全例にIMRTが選択され、治療中の有害事象はほとんどなく、放射線直腸炎と言った晩期有害事象の発生頻度も5~8%と非常に低い。

PSA再発症例も現在までほとんどなく、非常に優れた結果を残している。頭頸部癌に関しては、早期の喉頭癌を除く全例にIMRTが施行され、従来の放射線治療と比較して、唾液腺障害がほとんどなく(従来は必発)、治癒率も70%を超えている。

腹部や骨盤の腫瘍に対するIMRTは、消化管の線量を大幅に低減でき、放射線治療に伴う消化管障害のリスクを低下させることに大きく貢献できている。

このようにIMRTは、放射線治療の世界に革命を起こした治療である。1台のライナックで、世界でも最高峰の高度な放射線治療を実践できているのは、放射線治療医と放射線治療技師の「今できるうるベストの治療を提供する」という医療に対する高いモチベーションによってなしとげられたものである。

2)呼吸同期放射線治療

がんの放射線治療には、計画にCTを使用し、体の3次元軸から座標をもとめる。しかし、肺や心臓のように、人間の体内には制止していない内臓が存在し、それによる影響で、肺、肝臓、後腹膜では、がんは呼吸性に移動する。

これまで、呼吸性移動に関しては、透視下でおおまかに移動量をみて、それをマージンとして放射線の照射範囲に付加する手法がとられてきた。しかし、これでは照射範囲が拡大し、治療に伴う有害事象が確実に増加してしまう。

当院では、胸部~上腹部の呼吸、心臓の影響下にある範囲では、必ず4次元のCTを施行し、がんの呼吸性移動を把握し、移動量が5mm以上の場合は、呼吸同期を行っている。たとえ、10回の骨転移の治療であっても、呼吸同期がベターであれば、それを行うのが、ポリシーである。

よい放射線治療を行うためには、労力がかかるのが当たり前であるが、それを実際に実践できている施設は限られている。

3)定位放射線治療
この治療が開始されてから10年以上の歴史があり、当初は脳腫瘍から開始され、体幹部へと適応が拡大された。当院では、2004年からサイバーナイフが脳腫瘍、頭頸部腫瘍の定位放射線治療の専用機として導入され、実績をつんできたが、体幹部の定位放射線治療は、がん治療センター開設以後に開始された。

体幹部の定位放射線治療は、主として3cm以下、3ヶ所までの原発性肺癌、転移性肺腫瘍、原発性肝癌、転移性肝腫瘍が保健適応となる。ほとんどの症例で、呼吸同期が併用され、週4日間で治療は終了する。開設以来コンスタントに月3-4例に施行してきており、他院からの依頼も非常に多い。

治療中の有害事象は皆無であり、治療後の晩期有害事象も非常に小さい。今後、高齢化が一層進中で、手術ができない、あるいは望まない患者はますます増加すると思われ、定位放射線治療の重要性はより増してくると思われる。

4)IGRT

IGRTとは、Image Guided Radio Therapyの略であり、2010年度から保健適応になった。従来からCTを使用し、三次元的に放射線治療を行うことは、ほとんどの施設でできるようになっていたが、それは体表にかかれたマークで位置合わせをするという原始的な手法で行われ、実際の治療時の誤差は数ミリから1cm程度まで及ぶことが指摘されていた。

IGRTでは、kv X線による2次元、もしくはコーンビームCTによる3次元の画像により、治療のたびに位置あわせ照合を行うシステムである。これにより、治療毎の誤差は最小限に抑えられ、コンピュータで計画された高度の治療計画が、人体内で正確に実践されるようになった。

当院では、80%の症例で、このIGRTが実践されている。IMRTや定位放射線治療といった高精度の放射線治療を陰で支える重要な技術である。ごく一部の高精度放射線治療を受ける患者だけでなく、可能な限りすべての患者が、高性能の放射線治療機器の恩恵を受けられるようにするというのが、我々のポリシーである。

化学療法と放射線治療

ほとんどの施設では、がんの治療方針は診断した診療科で決定され、手術、化学療法、放射線治療といった治療方針がガイドラインにそって決定され、治療方針が放射線治療になった場合、放射線治療医に紹介される。

しかし、当院では多くの場合、化学療法も放射線治療医が決定することが多い。頭頸部癌、食道癌、肺癌、膵癌などの根治的放射線治療においては、よい放射線治療を施行するだけでなく、同時並行して行う化学療法の選択が治癒できるかどうかを決める重要な選択肢である。

当院では、こういった根治治療における主治医をがん治療センターの放射線治療医が担当している。これによるメリットは、治療計画が迅速に行えること、化学療法と放射線治療の両者を一括して管理できることによる化学放射線治療における有害事象を最小限に抑えることができることがあげられる。

私が大学病院で最も苦労したことは、化学療法を予定する医者と、放射線治療を行う医者が異なるため、そのギャップに患者自身が苦しむことであった。化学療法と放射線治療の最高のコンビネーションが得られる薬剤量と放射線線量の調整がうまくいかなければ、効果が得られないだけでなく、有害事象が強く出たり、場合によっては、治療完遂が不可能になることすらまれではなかった。

そういう反省から、当院では、がん治療センターの医師が化学療法と放射線治療を一括して管理するシステムを導入するようになっている。放射線治療医が多くの入院患者をもつことで、多忙になる点を除けば、理想とする化学放射線治療が実践できていると痛感している。

さらに、当院にはない耳鼻咽喉科、婦人科の領域の腫瘍でも、大学病院レベルと遜色のない化学療法、放射線治療を提供できている。

集学的治療

戸畑共立病院がん治療センターの前身として、戸畑診療所、とばたクリニックにおける温熱化学療法・高気圧酸素治療が2003年から2007年度まで施行されていた。クリニックでありながら、19床の病棟を持ち、化学療法室を完備、温熱療法・高気圧酸素治療の装置をそれぞれ2台保有するがん治療の小さなセンターであった。

ここでの経験が、我々医師だけでなく、看護師、放射線技師、臨床工学師のスキルアップに役立ち、現在の戸畑共立病院がん治療センターの存在感が確立されたものと考えている。前述したようにがん治療センターの医師が統括してがん治療の治療方針を決定することで、化学療法も担当することが多くなり、これらの患者にもひろく温熱療法や高気圧酸素治療を併用している。

当院は、温熱療法、高気圧酸素治療をがん治療に併用している本邦でも有数の施設であり、当院の治療方針、治療成績が標準として認知されるまでになっている。表に当院での代表的ながんに対する集学的治療成績を示した。また、今年度国際学会で発表した10演題のPDFも閲覧可能としている。

たとえば、非小細胞肺癌Ⅲ期の、化学放射線治療に温熱療法・高気圧酸素治療を併用した症例の5年生存率は36%であり、胸郭内病変だけのIV期の非小細胞肺癌の5年生存率も26%である。また、手術不能膵癌の化学放射線治療に温熱療法・高気圧酸素治療を併用した症例の2年生存率は42%である。標準的治療と比較して格段の良好な治療成績を示すことができるのも、化学療法だけでなく、温熱療法・高気圧酸素治療といった生物学的理論に裏付けされた併用療法を化学療法や化学放射線治療とともに行う集学的治療の力であろう。

さらに他院でこれ以上治療継続困難と告知された方たちの中にも、温熱療法・高気圧酸素治療を化学療法と併用したり、高度な技術に裏付けられた再照射を併用することで、治療成果が上がり、中には完治まで至った症例も経験している。

我々の行っている治療は、ガイドラインをベースにして、最高の放射線治療、最高の併用療法を駆使した最高の集学的治療であると自負している。患者一人一人を大切にし、週6日外来で、いつでも受診できる、そして、必要があればすぐに検査を行い、リスクを最小限にとどめていく、そういった私が追い求めてきた最高の治療を、がん治療センターのスタッフと共に日々追い求めている。

戸畑共立病院 副院長 がんセンター長
今田 肇

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