がん治療の取り組み ~密封小線源治療

本邦の前立腺がん患者は、前立腺特異抗原(PSA)採血という簡単な検査からがんの診断に導くことができることから、近年患者数が急速に増加しております。
このPSA検査は、現在かかりつけの担当医の施設でも受けられますし、平成19年10月より北九州市の市民検診のなかでPSA採血を受けられます。50歳以上の男性には、是非、年1回の検査をお受けいただきたいと思います。
PSA採血結果に異常があって、その後泌尿器科施設で前立腺針生検という検査を受けていただき、陽性であった場合にはじめて前立腺がんと診断されます。
前立腺がんに罹りますと、早期がんと診断された場合に、根治療法として、手術や放射線治療などがあります。
米国の報告では、限局性前立腺がんに対する7年間の治療効果について、手術と放射線療法(体外照射法と密封小線源治療)の間に差がないことが2004年に報告され、以後本邦でも放射線治療に関する治療が注目されております。
2006年には、本邦の前立腺癌治療ガイドライン(日本泌尿器科学会)が示されて、早期前立腺がんの根治療法として、手術と放射線治療は同等にあげられております。

放射線治療には、体外から放射線を照射する体外照射法(3D-CRTまたはIMRT )と、小さな放射性線源を前立腺に穿入する密封小線源療法があります。当院にはこのいずれの放射線治療も可能な診療体制にありますので、どんな状態の前立腺がんでも放射線治療を行うことができます。ここでは密封小線源治療について説明いたします。
密封小線源治療(ブラキセラピー)とは、5mm程度の小さな放射性線源を前立腺に50~80本程度打ち込み、前立腺だけに放射線をあてる治療法です。最大の特徴は、抗男性ホルモン治療を併用しない場合には、男性機能(勃起力)を低下することなく、短期間の入院で癌を治療できる方法であることです。 北九州地区では、本年7月より当院が最初に導入いたしました.導入に当たっては、久留米大学病院および浜の町病院の先生方からご協力いただき、現在まで安全に治療できております。
当院では、前立腺がんに対する放射線治療については、3つの治療法の中から、患者さんの病状とご希望にあわせて治療法を選択しております.治療についてご相談のある方は、現在治療をお受けいただいている先生からの紹介状を頂き、当院の地域医療連携室(連絡先:0120-008-914)にお問い合わせください。

泌尿器科部長
山田 陽司
Nelson Stone教授からの技術指導(1回目)
戸畑共立病院では、北九州市で初めて、平成20年7月より限局性前立腺癌に対する根治療法として、永久密封小線源治療を導入してきました。平成21年4月までに、多くは近隣施設からの症例をご紹介頂き、20例の治療を終了しました。これまで大きな合併症もなく、無事導入できました。
この治療法の導入に際しては、担当職員が平成19年より多くの講習会に出席して準備を行ってきました。その中で、平成20年東京都で開催された小線源治療に関する安全講習会でのハイライトは、東京医療センターで行われた小線源治療のLive 手術と講演会でありました。
その演者が、米国New York州Mt. Sainai病院で泌尿器科と放射線腫瘍科の教授であり、世界で最も小線源治療の経験があり、世界的権威でありますNelson Stone教授でありました。このStone先生が、技術指導のために、平成21年5月21日に当院へお越しいただきました。導入1年近くとなった当院にとって、直接指導いただく貴重な機会を得ることができました。ご指導の主な点は、エコー上の前立腺組織輪郭の描出法、術中放射線治療計画のコツ、辺縁法という穿刺方法と線量分布図作成のコツなど、英語でしたが、わかりやすい言葉でご指導いただきました。これは、泌尿器科医、放射線治療科医、放射線技師、看護師にとって非常に有意義な治療症例となりました。今後の症例治療に際し、より安全で確実に治療できるようにご指導いただいたと思っております。
文章 泌尿器科部長 山田陽司
Nelson Stone教授からの技術指導(2回目)
当院では平成20年7月より限局性前立腺癌(特に低リスク群)に対する根治療法として永久密封小線源治療を導入し、平成21年12月10日までに43例の治療を終了いたしました。この治療法は、当院が北九州市でもっとも早く導入して、平成21年5月に米国密封小線源治療の第一人者、Mt. Sainai病院のNelson Stone教授から、低リスク群症例の小線源治療に関して、安全で確実な治療方法をおこなうための技術指導を直接していただきました。5月にご指導いただいた後に治療を行った患者さんでは、よりよい放射線線量分布と線量が得られるようになりましたので、最近では中リスク群の患者さんにも積極的に治療をおこなっております(短期間のホルモン治療併用)。
当院での治療成績ですが、患者さんの治療後PSA値推移では、初期治療20例と、Stone指導後23例では、両群とも良好な反応を示しており、まだ観察期間が短いのですが、再発例は1例もありません。また小線源治療で通常見られる合併症の排尿障害は7割の方にありますが、内服治療を行います。一時的に尿が出なくなった尿閉(3例/43)、血尿で内視鏡的止血術(1例/43)がありましたが、直腸障害はなく,その頻度は他施設と同様と思われました。
平成21年12月にNelson Stone教授が再度来日され、当院で本年2回目の技術指導をいただくチャンスがありました。治療を受ける患者さんにもご説明し、治療中に直接ご指導いただく機会となりました。

今回の指導では、中リスク群に対する治療について、①処方線量増加と線量分布図の考え方、②精嚢腺浸潤が疑われる場合の精嚢腺への線源留置方法、についてご指導いただきました。教授からは、まず中リスク群でも組織像によっては高リスク群と同様に扱うべき症例があることに注意すること、高リスク群に対しては、小線源治療+外照射療法の成績が非常によいことをまずミニ講義をしていただきました。その後、実際の治療操作を含めてご指導いただきました。
治療は無事終了し、当院の泌尿器科医,放射線治療科医,放射線技師,看護師にとって非常に有意義な講義と指導となりました。また、この治療をより安全で確実に行うための手順・操作法について、スタッフ全員が再確認をする大変よい機会となりました。この内容を患者さん治療に早速役立てていきます。 当院では、これからも限局性前立腺癌の密封小線源治療を行いますが、治療の最大目標を“安全、確実”にしております。当院での治療希望がある方は、主治医の先生から紹介状をいただいて、当院医療連携室へご連絡ください。 文章責任 泌尿器科部長 山田陽司

当院での前立腺癌に対する根治放射線療法の治療成績
当院では、限局性前立腺癌に対する根治放射線療法は2つの方法で治療しております。
平成20年7月より密封小線源療法を、同じく9月より外照射療法のIMRT(76Gy)を導入・開始しました。 平成22年12月末日までに2つの根治療法実施症例が約200例を終了しましたので、当院での治療成績についてご紹介いたします。
密封小線源治療について:限局性前立腺癌の内、低リスク群および中リスク群に対する密封小線源治療は、平成22年12月末日までに86例の治療を終了いたしました。
低リスク群では密封小線源単独療法を中心に、また中リスク群では、短期間の抗男性ホルモン療法併用および精嚢腺シード留置を合わせて行っております。
治療後1年以上経過した患者様は43例ですが,治療成績(効果)は現在までPSA再発した患者様は一人もおられません。
この治療法の副作用は,治療後2~6ヶ月に約60%の患者様で、尿がでにくい、尿が近いという排尿障害を訴えられます。いずれの場合も排尿障害に有効な薬剤投与で治療・軽快しておられます。
一時的に尿がでなくなる一過性尿閉が6/86例でみられ、併発した患者様の疾患背景には糖尿病、高齢者、治療前から高度の排尿症状のある患者がありました。
その後の経過では、糖尿病患者1例では1ヶ月以後も間欠的導尿をしていただいておりますが、そのほかの患者様はすべて軽快しております。
放射線性直腸炎による下血は1/86例で、排便調整および経過観察で止血されております。
血尿のために内視鏡で止血術を有したのは1/86例です。このほかシードの移動および脱出、PSAバウンスがみられますが。治療上問題となることはありませんでした。
外照射療法(IMRT)について:限局性前立腺癌のすべてのリスク群およびT3症例に対する外照射療法(IMRT)は、平成22年12月末日までに97例終了いたしました。
治療には8週間の期間が必要で、排便調整薬で直腸の状況を調整し、治療時には毎回画像補整を行って照射を行っております。外来通院治療でよいのですが、最近では多くの患者様で入院治療を承っております。
治療成績は、すでに他院で癌の診断後長期ホルモン療法を行われた患者様および再燃癌の患者様を除きますと、新鮮例として治療開始した症例ではPSA再発した患者は1例もおられません。
この治療法の副作用である排尿障害は小線源治療に比べると軽度で、治療開始後1ヶ月以降治療後1ヶ月までの約30%の患者様に認められますが、前立腺肥大症に有効な薬剤の投与で治療・軽快しておられますし、IMRTで尿閉となった患者様はおられません。
放射線性直腸炎は6例で、内1例は直腸鏡での止血操作が必要でしたが、そのほかは排便調整薬や止血薬で軽快しております。
軽度の放射線性膀胱炎で尿検査での血尿がみられることがありましたが、止血薬で軽快しておられます。
治療成績のまとめ:2つの治療法でいずれも再発例がありませんが、治療をお受けになった患者様の前立腺癌状態が同じではない(リスク分類が異なります)ので、どちらの治療が優れているかは断言できません。
しかし、線源を刺入する密封小線源治療では、短期間で治療でき、直腸炎はきわめて少ないのですが、治療後の排尿障害や血尿の副作用がやや多くみられます。
一方、外照射のIMRTでは2ヶ月間の治療期間が必要ですが、様々な癌の状態(高リスク群やT3症例Z)に対応でき、治療中合併症が少ないのが特徴ですが、外から放射線を照射しますので直腸炎の頻度は小線源治療よりやや多くみられます(一般施設で行われる外照射療法での副作用よりは明らかに少ないといえます)。
当院では、この2つの治療法で前立腺癌を治療しておりますので、治療をお受けになりたい希望がありましたら、現在の担当先生にご相談いただき、当院の地域医療連携室を通じて外来受診のご予約をお願いいたします。
平成23年1月 文章責任:泌尿器科部長 山田陽司
前立腺検診の二次スクリーニング(MRI検査)について
前立腺癌の診断にはPSA検診が非常に有用で、前立腺二次検診項目は、PSA再検査、問診票(国際前立腺症状スコア)、直腸指診、画像診断(エコー、CT、MRI)などが行われます。確定診断には前立腺針生検検査が必要ですが、PSAが4.1~9.9までの患者様全例に針生検検査を行っても、癌は30%程度しかいないことが知られています。そこで、当院では針生検前に前立腺MRI検査(40分間横になっていただくだけです)を受けていただき、癌の疑いがあるのか、早期に針生検を行うべきかどうか、を判断しております。
平成20年5月からの3年間に当院で実施した前立腺MRI検査症例は342例ありました。そのうち最も多かったのが、1.PSA上昇があっても画像では前立腺肥大症と考えられ、すぐに針生検まで行わずに経過観察あるいは内服治療を行った133例(38.9%)でした。次は2.MRI画像所見があり針生検を行って前立腺癌と診断した99例(28.9%)で、3.生検を行っても癌がなかった50例(14.6%)の順でした(当科の針生検による癌陽性率は66.4%)。特に前立腺の外側にMRI所見がある場合には、癌診断率が高く(80%以上)、MRI所見の有無によって針生検をお勧めしてよいと考えています。
MRI所見以外に前立腺針生検をお勧めするのは、1.これまでのPSA値の推移、2.年齢、3.前立腺の大きさ、を考慮して針生検を実施しております。また直ちに針生検を行わなかったが、その後PSA上昇から針生検を行って、癌と診断される患者様もおられましたので、ただちに針生検を行わなくとも、その後の経過観察から、生検する時期を判断してよいと思っております。針生検検査は、無麻酔ではとても痛みを伴いますので、当科では仙骨麻酔を行い、痛みを少なくするようにしておりますので、1泊2日で行っております。結果は1週間以内には診断し、ご説明するようにしております。当科では、前立腺癌の治療だけではなく、診断についても以上のように行っておりますので、MRI検査希望の患者様は、当科の外来担当医にご相談ください。
前立腺癌の診断について、放射線治療をする立場から考えますと、PSA>10.0の患者様の治療成績は、10未満の患者様よりも明らかに再発しやすいことがよく知られております。前立腺癌はPSA値が10未満で診断・治療を行うことが、その後の治療成績に大きく影響すると思われます。当院での前立腺癌に対する根治放射線治療症例が220例を超えました(密封小線源治療とIMRT)。前立腺癌に関する診断、治療について、受診希望がありましたら、医療連携室を通じて受診ください。
前立腺癌の放射線治療に関する受診予約について
前立腺癌の放射線治療に関しては、山田が担当しております。治療法説明については約1時間をかけて説明しております。午前中には十分な説明時間がとれませんので、午後の時間を予約していただいて説明しております。受診予約につきましては、現在治療していただいている担当の先生から紹介状をいただいて、当院医療連携室を通じて、受診日時をご予約ください。月、火、水曜日の午後の時間で、十分説明させていただきます。
[連絡先]
地域医療連携室
電話:093-871-5468(月~金 9:00~17:00 土 9:00~12:00)
FAX:093-871-5970
E-Mail:renkei@kyoaikai.com(24時間受付)
専門医等
| 医師名 | 担当科 | 学会資格(関係するものを抜粋) | 卒年度 |
|---|---|---|---|
| 林 健一 | 泌尿器科 | 日本泌尿器科学会専門医・指導医 | 昭和55年 |
| 山田 陽司 | 泌尿器科 | 日本泌尿器科学会専門医・指導医 日本Endourology・ESWL学会泌尿器腹腔鏡技術認定医 |
昭和63年 |

